vol.3は、グッぼるで最も質実剛健なクライマーであろうと想像できる四方健之氏。クライミングに出会ってから、クライミング/家庭/仕事、どれにおいても同レベルで直向きに取り組み続け約8年。ご結婚や仕事で生活環境が変わる中、現状維持どころか常に限界を超える登りに挑み続ける四方氏。その根底にある安定したクライミングへのパトス(情熱)に迫ってみました。
キッカケ
20代後半、元々アウトドアで遊ぶ事が好きだった事もあり、近くの永源寺の河原(東の河原)をメインでキャンプや釣りをしていたそうです。その河原にごろごろ存在する大岩たちを、いつしか本能の赴くままにカラダ一つでよじ登る行為が楽しくなり、もっと上手く効率良く登れる方法は無いかと考えるようになっていかれました。偶然ラジオで栗東のKO-WALLさんの存在を知り、すぐに通うようになったそうです。丁度「生涯スポーツを見つけたいなぁ」と思っていたこともあり「これはイイ!」とどんどんのめり込んでいったそうです。
カラダの変化(胸から背中へ)
その頃私達夫婦もKO-WALLさんに通っていたので、四方氏とちょいちょい出逢うようになりました。その時の四方氏の印象は「え??格闘家??」と思ってしまう程にとにかく上半身の筋肉が立派だったのを今でも覚えています。なんでも学生時代はずっと陸上をされていて卒業してからも筋トレを続けておられたとのこと。にしてもツワモノ揃いのKO-WALLさんの常連さんの中でも尖って攻撃的な上半身であったことは間違いありませんでした。やがてクライミングに集中するようになって胸筋は小さくなり体重も減り背中側の広背筋や僧帽筋が発達していきました。特に岩志向になりカラダの使い方やぶら下がりのフォームの改善で、さらにその変貌は加速しました。今回の取材で岩の完登動画を数本見せていただきましたが、4年ほど前のものと最近ものとでは、別人の背中をみているような圧倒的な差が見てとれました。ボディラインのシルエットはスリムになっているのに、背中のカットはインナーマッスルの成長によってますます顕著になっています。それに伴い登り自体もブラッシュアップされており、確実に「目標課題の完登」という成果に繋げられています。
岩(課題)への向き合い方の変化
クライミングに出会った30代始めから、その後ご結婚されてからもクライミングにおける活動は積極的かつ精力的に続けておられた四方氏。その頃はただひたすらにグレードを追いかけるクライミングをしていたそうです。お仕事とご家庭の許す限り、平日の夜を中心に東の河原やLLTへ通い続け、先ずは二段、三段を目標に。その後は四段を、と。
30代半ばに差し掛かり第一子を授かり生活のリズムが一変。四方氏にとって最優先はご家庭(子育て)となりそのご家庭を守りつつクライミングを続けるために転職を決意されました。その頃からクライミングへの向き合い方が変わってきたそうです。多忙な日々の中で貴重なスキマの時間に登れる事、岩に触れられる事がいかに大切で充実した時間であるか、と実感し、そして逆にそれまでのグレードへの拘りが薄らいでいったそうです。人生の優先順位が変わったことで今は登れる事自体を純粋に幸せだと思えるようになったと。ただクライミングは記録のスポーツであり自己限界を押し上げる事に大きく意味を持つモノ。やり続ける以上はふとした瞬間のトライでも後悔しない為に、常に少し上を目指しながら現状をキープする努力を続けておられます。どうしても家から出られない日は、自宅倉庫に設置した自作のラングと薄カチホールドでトレーニングを欠かさず、保持力が落ちないように努力を続けておられます。そうした中以前から目標にしていた「おいちょかぶ 四段」を完登されました。3年ほど前にトライして以来だったそうですが、久しぶり触った感触には明らかに手応えがあり、まだまだ成長を感じる事ができたそうです。結果トータル4、5日のトライで完登できたそうです。
そういった家族優先の日々の中でスキマの時間を作り効率よく登るというサイクルになってからは、コンスタントに年に一本四段を完登することができているそうです。岩場へ行く少ない限りあるチャンスを活かして確実に完登に結びつけることができる「決める力」も日々のトレーニングでキチンと積み上げられていたのですね。
ナゼ岩なのか?
ナゼかどうしても岩に登りに行きたくてウズウズムラムラしてしまう。そして岩に触れると結果はどうあれナゼか心が満たされて浄化されたような充実感を抱くことができる。そういった感覚は岩を登る人であればきっと多かれ少なかれ経験があることだと思います。今回の四方氏の取材の中で、その特有の岩への「執着心=愛」がより濃く強いモノであるように思えました。岩で過ごす時間を捻出するための努力を惜しまないスタンス。その根底にあるものについてご本人は、「本能・煩悩(欲望)」の一つであるとおっしゃっています。岩での充実感は生きていく上でのすべてのそれを上回る極みであると。
「岩を登る人」になったことによって、人間としての本能・欲望が一掃され、その優先順位第一位が「岩を登ること」に置き換わってしまったのでしょう。
これからも変わらず続けたい
今後の目標は?の質問に、「とにかく岩に行きたい。そして行けた時に後悔しないよう、登れるカラダを維持・進化し続けられるよう、努力したい」。と四方氏。
現在は二人のお子さんを連れてご自身が岩登りにのめり込んだきっかけとなったキャンプや外遊びに出かけるのが、ご家族共通の楽しみの一つ。もうちょっと長男のHくんが大きくなったら一緒に岩登りの楽しさを共有できるようになれるかなぁ、とその情景を浮かべておられるのか、目を細めて優しいお顔で話されていました。


