今回、グッぼるスタッフの亀山凌平が、フィンランドに渡り、世界最難グレード「V17」に挑戦してきました。これで彼にとって4度目のV17チャレンジ。けれど、そこにはやはり、世界の壁の厚さを痛感させられる瞬間が待っていました。
でも、その厚い壁の向こう側にこそ、フィンランドに根づく「SISU(シス)」──静かで、けれども確かに力強い心のあり方がありました。
この旅は、ただの挑戦ではなく、「心の強さ」と向き合い、自分を育てる時間になったのだと思います。
そして、この国が生んだ伝説のクライマー、ナーレ・フッカタイバル(Nalle Hukkataival)。彼が歩んだ道を重ねながら、クライミング、そしてこれからの生き方についても考えてみたいと思います。
SISU──クライミング、そして生き方へ
「SISU(シス)」という言葉を知っていますか?フィンランド語で「困難に負けずに進み続ける内なる力」を表す言葉です。ただの根性や気合いとは少し違う、もっと静かで、もっと奥深い、心の芯の強さ。
このSISUの精神が、世界最難グレードV17(9A)を切り拓いたクライマー、ナーレ・フッカタイバルを支えてきました。
彼がフィンランドの地で、何年にもわたって向き合い続けた課題「Burden of Dreams(夢の重荷)」は、単なる岩の塊ではありません。それは、自分自身との対話であり、静かな挑戦の連続でした。
落ちても、傷ついても、何度でも立ち上がる。そんな姿勢の根底にあったのが、フィンランドの空気の中に染み込んだ、SISUという精神だったのです。
クライミングは、SISUを育てる旅
クライミングは、一見すると技術や筋力を競うスポーツに見えるかもしれません。けれど本当に試されているのは、もっと奥深い部分──自分に負けない心です。
何度落ちても、もう一度壁に向かう。心が折れそうになっても、あと一手を伸ばしてみる。
クライミングは、派手な勝ち負けではなく、自分との対話を繰り返す、生き方そのものだと感じます。
たとえ小さな進歩でも、その積み重ねが、静かに自分を変えていく。そんな旅のようなものだと思います。
SISUを日々に取り入れるために
「簡単じゃないこと」に向かってみる
つい楽な道を選びたくなるのが人の常です。でも、あえて難しい道に挑んでみることで、内側に眠る強さに気づくことができます。
ナーレ・フッカタイバルが、誰も成し遂げたことのない課題に挑み続けたように──。
結果ではなく「挑む姿勢」を大切にする
登れたかどうかよりも、登ろうとしたかどうか。その姿勢を、自分自身が一番よく知っています。
誰に見られていなくても、小さな一歩を積み重ねることは、自分への信頼になります。
限界を超えた「その先」を少しだけ覗いてみる
「もう無理だ」と思ったその瞬間こそ、あと一手、あと一歩だけ、踏み出してみる。
結果がどうであれ、その挑戦自体が、SISUを少しずつ育ててくれるはずです。
フィンランド、クライミング、そしてSISU
フィンランドの自然は、とても厳しい環境です。寒さ、暗さ、孤独。でも、その厳しさの中でこそ、人はじっくりと鍛えられていきます。
フィンランドには、子どもたちが自然の中で生きる力を育む「自然教受験(自然教育)」という文化があります。例えば、雪の中で裸足で遊んだり、雨の日でも森を歩いたり、寒さを避けず、自然のリズムを受け入れる体験が、幼いころから当たり前のように積み重ねられています。
この「自然とともにある教育」が、静かでしなやかで、それでいて強い、SISUの精神を育てる土壌になっています。
「Burden of Dreams」がある場所もまた、広大なフィンランドの森の中。人の気配もほとんどない、静かで厳かな自然に抱かれたその空間が、クライマーに語りかけるのは、いつも自分自身の内なる声です。
SISUは、生まれながらに備わっているものではありません。日々の小さな選択や、自然の厳しさと寄り添う体験の中で、少しずつ、静かに育っていくものなのです。
ナーレ・フッカタイバルも、そんなフィンランドの風土と教育の中で、自分自身をじっくりと育ててきました。世界が認める偉業を成し遂げた裏には、きっと、静かであたたかな努力の日々があったはずです。
今回、グッぼるスタッフの亀山凌平も、フィンランドでその壁に挑みました。4度目のV17挑戦。結果だけを見れば、世界の壁はやはり厚かったかもしれません。
けれど、挑戦するたびに、彼の中には新しい何かが宿っていたはずです。壁に跳ね返されるたびに、少しずつ育っていった「負けない心」。
それこそが、フィンランドで感じたSISUの本質だったのでしょう。
自然と向き合うこと、それは人生と向き合うこと
自然は、僕たちを選ばないし、甘やかしもしない。 静かにそこにあり続けるだけです。
だからこそ、自分の中にある「諦めそうになる心」と、 そっと向き合うチャンスを与えてくれる。
クライミングも、人生も、きっと同じです。
登ることをやめなければいい。 落ちても、傷ついても、また静かに、また強く、立ち上がればいい。
そうやって、自分の中に、静かに燃える力を育てていきましょう。
壁の向こうには、きっと、まだ見ぬ景色が待っています。


