スラブの名セッター笠原大輔さんの意識
新しい試み。グッぼるコンペ壁85°だけを1日かけてセットしていただきました。スラブといえばプロセッターとして活躍中の笠原大輔さん。BJC(ボルダリングジャパンカップ)決勝でもスラブ壁を数多く担当。選手としてコンペで活躍しているときから、笠原さんの緩傾斜における「上手さ」は際立っていました。重心を移動させるための下半身の使い方がとても柔軟。リードにおける最後の粘りも、しっかりとしたフットワークからでした。2016年BJC決勝では、笠原さんのセットしたスラブ課題が絶妙すぎるあまり、ゾーンですら誰も止められなかった課題もありました。
整合性というワードからみえるもの
セット最中に笠原さんは「課題の整合性」という言葉をよく使っていました。「下部と上部で整合性がない」「あそこはムーブの強度的に整合性がない」といった具合です。ジム課題は多くても10手前後。コンペではたった3手程度のこともあります。その数手に、そのグレードや内容に適さないムーブが1箇所でも含まれていれば、当然ながら登るクライマーには違和感となります。例えば、スタートのフットは滑りやすく浮くことすら厳しいのに、その後は安心して踏めるガバフットである場合などです。最初から最後まで、そのグレードを登るクライマーが緊張感を持って楽しめる課題。そこに至るまで内容を付き詰めるというのはまさにプロ意識。
想定したムーブに落とし込む
笠原さんがまず8課題を8時間ほどでセット。その後1本ずつ試登し、修正。課題のグレード感はもちろん、クライマーに求めたいムーブも妥協なしに追求。特にスラブでは、フットホールドにスムーズに体重を預けられるかどうかで、途端に課題の印象が変わります。少し強度を加えたい時には、あえて手のホールドをアンダーに変更し、足への負荷を強制的につくる。また、ホールドの厚みを薄くする。こうした課題の印象をがらりと変えるポイントを巧みに使って修正していました。
同時期の各課題には差別化する特徴を出す
特徴立ったムーブが明確かつ、課題ごとですべて異なる方がクライマーが完登に至るまでのオブザベ・トライ・ムーブ修正の幅は広がります。単純にスラブ壁で薄いホールドを慎重に踏むだけでは、課題の面白さに含みは出てきません。笠原さんもその点は都度手を加えていました。試登であまりに「ホールドに乗るだけ」と感じた場合には、ホールド位置の上下・傾き・寧ろ足よりも手で引くといった具合に調整。それぞれの課題がより尖った印象へと変更されていきました。
できない=ピンポイントで自身の克服へ
今回の笠原さんによる課題は、ムーブを制覇すること自体がとても有意義に思いました。たとえ完登は出来なくともです。スラブ壁では手の保持力より、柔軟性と体のポジションを習得するのが大切。スラブ壁のような緩傾斜をセット・登る実力のある笠原さんは、ホールド選びの段階から繊細なバランスを想定し、核心ムーブを組み立てていました。そうしてセットされた特徴のあるムーブだからこそ、スラブ壁の出来ない動きは弱点の克服に直結します。笠原さんによる8課題。ぜひセッターの意図を楽しみつつ、グレード問わず挑戦していただきたいです。


